噛む効果について
【噛む行為と回数】
人が物を噛む力は最大で体重の2~3倍あり、通常の食事の際にかかっている力は一般的に男性で約60キログラム、女性で約40キログラムと言われています。そしてその力は当然ながら歯全体にも物理的な刺激としてかかり、歯を支える歯根膜繊維を通じて顎の骨に伝わり、また顔の筋肉を介しては頭全体の骨へと伝わります。その結果骨の甲に圧迫や牽引が生じ、細胞が活性化され栄養やカルシウムが摂取されやすくなることで密度の高い丈夫な骨へと育まれています。しかしながら、現代の食生活の中では軟らかい食べ物が多くなり、噛む力は勿論のこと噛む行為自体それほど必要としません。本来、日本では古くは農産物として収穫した大麦・稗・あわ・ハト麦といった雑穀を主食としていましたが、これらは白米と比べると硬いため噛む回数も自然と多くなり、神奈川県の歯科大学が行った実験では、弥生時代の古代食を再現して咀嚼回数を調べたところ3,990回以上かかると分かり、現代食の620回に比べると6~7倍の回数を必要としたと推定されます。このようにこの実験では、食べ物の変化により現代人がいかに噛まなくなったかが浮き彫りとなっています。
【噛む効果とその活かし方】
現代人の咀嚼回数が少なくなっている現実的な影響にはどのようなことがあるか、噛む効果について述べてみます。まず挙げられるのは胃腸の健康に関わっている点で、噛む行為により唾液の分泌量が増加して唾液に含まれる消化酵素も促され、さらによく噛み砕くことで胃腸にかかる負担も和らげます。そして唾液量の増加に伴い唾液の持つ抗菌作用が高まって虫歯や歯周病、口臭の予防にも繋がり、加えて唾液中のペルオキシダーセという酵素は食品の発癌性を抑制する効果があると言われている為、癌予防にも有効です。またゆっくりよく噛んで食べれば満腹感が得られて食べ過ぎの防止になり、食べ物の形や硬さもじっくりと感じられるので味覚も発達します。それから口の周りの筋肉を使う為、顎の発達を助けると同時に言葉の発音も明瞭になり、脳内の血流量も増加するので脳の発達や老化防止にも効果的です。このような噛む効果について生活の中で実際に活かす為には、昔から言われているように、食事の際にはゆっくりと時間をかけよく味わって食べることが大切です。噛みごたえのある硬い食べ物に対しては30回を目安に噛み、水分で食べ物を流し込む食べ方はしないよう心掛けましょう。